領収書レシート控えのチェックは全部見る?筆跡や日付、持ち帰り調べることも!

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永江 将典

公認会計士・税理士
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今回は税務調査の立ち合いなど、税務調査に関して依頼を受けた際、お客様よりよくお聞きされる質問についてお答えしていきたいと思います。
よくある質問の第1回目は、支払い、つまり経費の領収書についてご紹介していきます。

 

今回の記事は個人事業主の方を対象とした内容となります。もちろん法人の方にも当てはまる部分はありますが、個人事業主の税務調査での質問にお答えしているので一部相違が出てくることや、概念が違う部分があります。

では、経費の領収書についてよくある質問は、どのようなものがあるのか…
よくお客様からお聞きする質問は、「税務調査どこまで調べられるのか。」「税務署に持って帰ると言われた時にどうしたらよいのか。」といった事が多いです。

その他、それぞれの方の状況に応じた質問もあるのですが、個別の内容となってしまいますので、ここでは割愛します。

 

今回は、それらのよくある質問にお答えすると同時に、税務署の調査官、調査担当者から直接聞いた支払いの領収書で最近よく見られるケースについても伺うことが出来ましたので、併せてご紹介していきたいと思います。

 

(1)法的に定められている「経費」の定義

税務調査でよくある質問

 

まず、経費の領収書についての質問にお答えするにあたって、大切な要素として、「経費」が法的にどのように定められているのかを知っておく必要があります。

 

何故なら、税務調査の調査官は、常に法に基づいて税務調査を行っているからです。

もちろん「経費」に関しても、調査官は、そして税務調査は法律で定められたことに則り行われています。つまり「経費」というものを個人の勝手な解釈をして申告した場合、すなわち法的な解釈からみると間違っている申告内容をした場合、経費として否認されることになります。

 

「法律の解釈って難しい…」と思われるのは重々承知しておりますが、今一度ここで確認して下さい。法律の解釈は、専門家である私たちも頭を悩ませることがあります。事実法律で規定されている内容によっては解釈がわかれるケースもあり、税務調査で折衝する部分が出てきます。ですので、難しく考えず、まずは基本を押さえるといった気持ちで今回この「経費」の定義を知って下さい。その上で「自分の場合だと、法律に則ってると思うんだけど、どうなんだろう?」と思われる場合は相談の際お尋ね下さい。

 

「経費」の認識が法的な定義と違っていて否認されたというケースは個人事業主の方では多く見られます。

何故なら個人事業主の方は、支払いの領収書として関わってくるものは「経費」はもちろんのこと「生活費」「生活関連費」というものがあるからです。

 

これらの詳しい説明をしてしまいますと、訳がわからなくなってしまうと思いますので、今回は「経費」の定義についてのみ話題とします。

 

しかしながら「生活費」や「生活関連費」は「経費」の否認事例などにも関わってきますので、これらをまとめた

接待交際費に家族での旅行や、貰った領収書が入っています。脱税は見つかりますか?

個人の所得税の税務調査の頻度とポイント・注意点や経費の否認事例

をご参照ください。

 

さて、前置きが長くなりましたが、法的に定められている「経費」の定義とは。

 

まず経費というのは所得税法の中に定義があります。

所得税法第37条の第1項の規定がこの必要経費についての定義に該当しします。

『第三十七条 その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額(事業所得の金額及び雑所得の金額のうち山林の伐採又は譲渡に係るもの並びに雑所得の金額のうち第三十五条第三項(公的年金等の定義)に規定する公的年金等に係るものを除く。)の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。』

 

要するに「収入を得る為の直接要した費用」という事です。

 

そして、税務調査で経費が否認されるかどうかの論点の多くの1つとして代表的なものは法律で定められている定義の中でも「直接要した費用」という部分になります。

 

つまり、税務署は「経費とは、直接要する費用なんだから、この費用は収入を得る為に必ずいる費用なのか?直接事業に関りがあるのか?」と聞いてくることが多く見られます。

 

「直接」という部分での論点が多く生じているとの言うのは、国税庁のホームページでもわかります。

国税庁のホームページの中には、「所得税法第37条に規定する直接性に関する一考察」という記事があります。

 

ただ、人によってはこの「直接」という解釈が違うというのもの事実です。

後述しますが、よく経費として否認されやすいものに、美容や服飾に関わった領収書というものがあります。つまり衣装や衣類、美容室、エステ、ネイル、眼鏡なども「収入を得る為の直接要した費用なのかどうか」という点で折衝が行われます。

実際、人前にでる職業の方(例えば芸能人など)だからという理由で経費として認定されることもありますが、とても稀なケースだと思っていてください。

又このような場合、「確かに必要かもしれないけれども、じゃあどこまでが?」というような折衝もする事があります。

 

あと、直接かどうかという部分での折衝が生じるのが、初期投資など収入に直結していないものを直接というのか間接というのかといったものです。

 

まとめますと、「経費」とは「収入を得る為の費用かどうか」また税法には「直接」という言葉がある為「事業に、収入に直接関係しているのかどうか」この2点を抑えておく必要があります。

 

それでは実際に経費に関する領収書についての、よくある質問の内容にお答えしていこうとおもいます。

 

(2)領収書はどこまでチェックするのか

税務調査でよくある質問

 

まずよくある質問でよくお聞きされるのが「領収書は税務調査でどこまでチェックするのですか?」「税務調査で領収書は全部見ますか?」というものです。

 

結論から申し上げますと、「基本的に全部見ます」。

 

この「領収書を全部見る」というのは、領収書の金額などをただ見るのではありません。

「領収書を全部見る」というのにも、いくつか視点がありますのでご紹介していきます。

 

① 内容、中身の確認

まず、「領収書の内容、つまり支払ったものの中身を確認」をしています。

具体的には、生活費と思われるものが入っていないかどうか、事業に関係のないようなものが入っていないか等を確認します。これらの確認は例え小さいレシートのような領収書であっても基本的には全てチェックされると思って頂ければと思います。

 

ですので、スーパーや薬局などの生活面に直接関連のあるレシート類は、レシートに記載されている内容をもちろんチェックされることになります。スーパーや薬局であっても事業に関連する、つまり事業をする上で必要となる内容であれば経費として認められるのですが、明らかに生活費と思われるもの、例えば晩御飯の材料であったり、風邪薬であったりといった生活費の内容は経費として認められませんので、即否認されてしまいます。

 

先ほど「経費」の定義についての所でも記載しましたが、最近よくあるケースで経費として否認されやすいものは「美容代」といったものです。

 

経費とは「事業に関連する支出」つまり「収入を得るために必要となる支出」であり、「収入に直接関係する支出」という定義ですので、美容や服飾に関する支出は一般的には事業にあまり関係のないものとされているため「経費」ではなく「生活費」とされることが多いです。つまり、美容に関わるものや服飾に関するものは基本的には「経費」として否認されると思って頂ければと思います。

 

② 不正がないかの確認

次の「領収書を全部見る」という視点について。

調査官は「領収書に不正がないか」を見ています。

 

具体的な内容をご紹介します。もしかしたら「そんな細かいところまで!?」と驚かれるかもしれませんが、調査官は申告内容が正しいかどうかを調査するために来ているので、しっかりの見ています。領収書をただ眺めているだけではないのです!!

 

ではどのような視点で領収書を見ているのでしょうか?

最近は印字された領収書が多いので、不正をしにくくなってきてはありますが、
手書きの領収書を経費としてもらっている場合においてはその限りではありません。

手書きの領収書での不正行為としてよく見られるのが、数字の改ざんです。

 

例えば「10000円」という数字が書いてある領収書があるとします。

よくあるのが、『1』という数字を『4』に書き換えたり(10000円⇒40000円へ)、
『10』という数字を『16』と書き換えたり(10000円⇒16000円へ)しているなどです。

細かい話になりますが、残念ながら、このような数字の改ざんをされる方がいます

 

しかしながらそう言ったような場合でも、調査官は不正を見抜きます。
ボールペンの色合いであったりとか、どうみても怪しさ満点の数字の作りだとかとか見抜けるポイントがいくつかあるようです。
ですので、調査官は領収書をチェックする場合、このような部分もしっかりと確認しているようです。

 

数字の改ざんで悪質だと判断された場合は事実確認をとるため反面調査に乗り出されることがありますので注意が必要です。

例えばどのような場合かといいますと、「10000円」の領収書を「110000円」と書き換えていた場合、「その店で本当に11万円の支払があったのか?」という事実確認を取りに購入したお店まで調査官は足を運び証拠を集めにいくことをします。

 

当たり前のことではありますが、数字の改ざん等不正行為は決してしないようにしましょう。

 

次に不正行為として調査官が目を光らさているのが「白紙の領収書」の存在です。

 

最近はあまりないかもしれませんが、ごく稀に「白紙の領収書」をもらうことがあるかもしれません。

このような「白紙の領収書」をもらい、金額は自分で好きに書いてというケースがあります。
当然のことですが、これは不正行為です。

領収書はお店の方に書いてもらいましょう。
筆跡などからバレることがあります。

また例え「白紙の領収書」をもらったとしても、使用しないことはもちろんの事、
「白紙の領収書」そのものを経費の領収書の中に一緒に置いておかない方がいいでしょう。

といいますのも、もらった「白紙の領収書」の束を、経費の綴りの中や1か月分まとめて袋などに入れて保管している所に一緒に置いていると、調査官から見た場合「まさにその『白紙の領収書』を使っている!?」というように認定されてしまいかねないからです。

「白紙の領収書」をもらったからといって、何もしていなければ不正ではありませんが、その「白紙の領収書」をただ経費の保管と一緒にしてしまうだけで、不利な心証を持たれてしまい、ない腹を探られるといったことにつながってしまうからです。

 

以上の事から、

白紙の領収書はそもそももらわない。
もらったとしても使わない。
そしてその「白紙の領収書」は経費など申告で使用した資料と一緒に保管するなど、後が残るようなことはしない。

といった事が大切かと思います。

 

③調査官から聞いた、最近よく見られる領収書の不正

 

領収書に不正がないかの確認で、最近よく見られるパターンがあると税務署の調査担当者の方から伺う事が出来ましたのでご紹介します。

 

近年、「ご不要なレシートはここに入れてください」といったものを、セルフのガソリンスタンドやコンビニエンスストアなどでよく見かけるようになりました。
これらの「不要となったレシート」を持って帰ってきて、自分の経費にしているというケースが近年の調査で見られることが多いようです。

特にガソリンスタンドのものは、金額も大きいですし、持って帰ってくるのもあまり目立たないのでやりやすいようですが、絶対にしてはいけません。バレます!!
というより、税務署の担当者からお聞きしておりますので、すでに不正の手口はバレていますし、見抜き方もちゃんとあるようです。

ガソリンスタンドのレシートには、日付や場所、ガソリンの種類、支払方法などレシートには素人が思っている以上に証拠となる情報が乗っています。

 

このように領収書の不正行為や偽装行為は調査官はプロですから、すぐにわかりますよ。バレますよ。という事を調査官からお聞きしましたのでご紹介しておきます。

 

④不正がバレた場合

調査官の領収書の確認は、内容や中身だけでなく、領収書の不正も確認しているとご紹介しました。
では、もし領収書の不正が発覚した場合、どうなるのか。ここで一緒にご紹介していきます。

 

まず、領収書の金額を改ざんしたり、事業で実際に使っていない領収書を使用して経費として計上する、例えば白紙の領収書を使用、もしくは自らとは関係ない領収書を使用する等、という事になると、そこには仮装隠蔽があったという事になります。これはいわゆる自分が払っていない経費なので、架空経費と呼ばれるものになってきます。

これらの仮装隠蔽という行為があったと認められた場合は「重加算税」の対象となります。

 

もちろん、領収書の不正だけでなく領収書やレシートの中に、いくら小さい生活費部分が入っているという事であっても、そこに仮装隠蔽というような事実があれば、それは重加算税の対象となります。

 

もし重加算税となった場合は、基本的にはそのごまかしていた金額のみが対象となります。しかしながら、現実ではそうならないこともあるようです。

といいますのも、「ごまかしていた部分」が見つかるという事によって、もともとの経費の領収書関係の信憑性そのものが問われるという事になりかねないからです。

 

このように「経費の資料そのもの」が疑わしいとなると、

否認される金額は「ごまかした部分」だけではなく「全部」が対象となり、
結果、全部重加算税がかかるという可能性がでてきます

つまり、ごまかしていた部分だけでなく、他にも影響が出てしまうという事になります。

 

言い換えると、
ごまかしていた事実が認定された時は、もうその時点で調査官から

「『経費として使用していた領収書などの資料』の信憑性が全くなくなったので、
他のところに仮装隠蔽があるかないかの話よりも
『あなたの経費そのもの』に信憑性がない」

という判断になってしまう可能性があり、その結果経費全部が重加算税という事になってしまうということです。

 

領収書の間違いや不正を見つける為、税務調査では調査官はいろんな角度から領収書を確認しています。

間違いはもちろんですが、
調査官がそれ以上に目を光らしているのが仮装隠蔽などの不正の存在についてです。
不正行為はバレます。絶対にやめましょう。

また不正行為が見つかった場合のペナルティは計り知れません。
金額だけでなく信用にも関わってきますので、しっかりと心に留めて頂ければと思います。

 

(3)「領収書やレシートを持って帰りたい」と言われたら、断ることが出来るか

税務調査でよくある質問

次によく聞かれる質問として「『領収書やレシートを持って帰りたい』と言われたら断れますか?」というものです。

結論から申し上げますと、基本的には断れないと思って頂ければと思います。

 

基本的には断れないと申し上げましたので、きっと「断れるものは何?」と気になるのではないでしょうか。
調査官から
「レシートを税務署に持って帰る」と言われても断れるものは、
まだ申告に至っていない年分の領収書のみです。

 

ですから、残念なのですが、
事前通知で調査年分を言われた部分の領収書は、
「税務署に持って帰りたい」と言われた時には断ることは出来ない

と思って頂ければと思います。

 

では、なぜ調査官にそのような強制力のある権限があるのでしょうか。

これは税務調査そのものに言えるのですが、税務署(調査官)には法に定められた質問検査権があるからです。

そして税務調査はこの質問検査権に基づき行われています。また納税者には受忍義務があるため、断ることができないのです。

 

つまり、個人事業主の方への税務調査の場合ですと、
個人課税部門から調査官がきます。そ
の調査官は所得税法の質問検査権に基づき調査を行うことになります。

そして調査対象となる納税者はこの調査官の質問や調査を受けなければならない義務(受忍義務)があり、
調査官が質問検査権の行使によって行っている調査については拒否することが出来ないとなっているのです。

 

この質問検査権や受忍義務などについての詳細は

なぜ?個人に税務調査が来る理由、脱税が疑われやすい申告書のポイント

個人の税務調査と追徴課税、申告是認となる確率について

個人事業主・自営業は税務調査が来ない?税務調査とは。調査時期について。

を参照してください。

 

調査官が「税務署に領収書を持って帰りたい」と言った場合、納税者側には受忍義務はありますので、拒否することはできませんが、すべてに対して何も言えない出来ないというわけではありません。

納税者側にも質問する権利がありますので、「何故持って帰る必要があるのか。」「持って帰るくらいなら全部ここで見ていって下さい。それの為の時間も作ります。」と交渉することは可能です。

 

もしこれらのやり取りをする自信がない場合は、税務調査を専門とする税理士に立ち合いを依頼し、税務署が質問検査権の濫用を防いでもらう協力をしてもらって下さい。

 

「税務署に領収書を持って帰る」のに、正当な理由が税務調査官側にある場合、これは法に基づいた行為ですので断ることはできません。

たとえ税務調査が専門の税理士であっても法を曲げることは出来ません。

しかしはっきりとした理由もなく不当にただ質問検査権の濫用だった場合、税務調査を専門とする税理士はその部分を見抜きますし、交渉をもって納税者が不利にならないよう守ることが出来ます。

 

税務調査では、申告内容そのものも重要ですが、このような調査官との交渉が結果に大きく影響を与えることになりますので、もし事前通知が来た場合一人で調査官と対峙するには自信がないという場合は、どのような些細だと思われた内容でも大丈夫ですので、まずご相談下さい。

永江 将典

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