税務調査の時に質問応答記録書にサインとか押印しろと言われた時に拒否はできますか?

永江 将典

公認会計士・税理士
プロフィールへ


皆様は「質問応答記録書」というものをご存知でしょうか?

 

「質問応答記録書」というのは、税務調査において大きな論点の一つにあげられます。

この「質問応答記録書」の存在によって、税務調査の場面で不利になったり時には有利になったりすることがあります。

 

今回は、あまり聞きなれない言葉だと思いますが、この「質問応答記録書」についてご紹介していきたいと思います。

 

「質問応答記録書」についての対応の仕方を知っているのと知らないのとでは、
納税者側のにかかる不利益や交渉の場での有利な切り返し方が変わってきます。
つまり、「質問応答記録書」とどのように関わるか、対策や対応の仕方、扱い方、交渉のカードとする方法等を知っているのといないのとでは、税務調査の結果が変わってきます。

知っている事で出来る対策や税務調査へ臨む時の心構えも変わってくると思いますので、是非お役立て下さい。

 

実際、税務調査の場で、時に調査官が「質問応答記録書」を作成し、その書面に署名・押印を求められる時があります。
ここで問題となるのは、「質問応答記録書」に署名・押印をしないといけないといったような言い回しを調査官はしてきます。

 

何故「質問応答記録書」を作成するのか。
その目的や対策について、
また署名・押印を求められた時に拒否する事ができるのか、
もし既に署名・押印してしまったけれど…といった時にも

出来る事は何かについてご紹介していきます。

 

質問応答記録書とは何か

まず、質問応答記録書についてご紹介していきます。

 

たまに「質疑応答記録書」と言われる方がいらっしゃいますが、

正しくは「質問応答記録書」です。

 

この「質問応答記録書」とは、ざっくり言うと
税務調査の中で判明した事実関係等を記載し、

その内容に間違いが無い事を証明する為の行政文書の事です。

 

少し難しい言い方をしますと、課税要件の充足性を確認する上で、
重要と認められる事項について、事実関係の正確性を証する為
その要件を記録した税務調査官が作成する行政文書の事です。

 

ここで大事な事は、質問応答記録書は、法律上必ず作成しなければならない文書ではありません
納税者側がまず知っておかないといけない事は、

質問応答記録書に署名・押印する義務はない!

という事です。

質問応答記録書に署名・押印しなかったからと言って、罰則もありません。

まずは、しっかりこの点を押さえておきましょう。

 

何故、質問応答記録書を作成する?

目的とは

では、法律上必ず作成する必要のない文書であり、署名・押印の義務もないのにも関わらず、調査官は質問応答記録書を作成するのでしょうか。

 

まず、大きな目的の一つとしてあげられるのが「税務署側の証拠書類」となるからです。

どういう事かと申しますと、
調査官は「重加算税を取りたい」つまり重加算税を付加したいと考えた時、「質問応答記録書」を高い確率で作成します。

もし、納税者側が重加算税に異議申し立てをして裁判等になった際、言った言わないの証拠書類として使われるのがこの「質問応答記録書」になります。

 

また「質問応答記録書」は証拠書類として扱われるだけでなく、調査官が統括官など上司や署長に対して説明・報告する際の内部書類としての側面もあります。

 

どんな時、作成される?

一番多いのが、税務署側が「重加算税を付加するかどうか」という時です。

 

重加算税を付加するかどうかの判定の証拠という目的以外にも、

次に、課税になるのかならないのかという判断の時にも作成します。

 

例をあげると、

書類が一部欠落しているだとか、現金商売ですと当然書類が残っていないケースもあります。この場合、物的な証拠が残っていませんので、
本人の供述をもって重加算税を付加していく、もしくは問題とされている取引が事業のものなのか私用のものなのかというのを判断し、文書に書き上げて証拠書類として残していくというように使われます。

 

もう少し具体的な一例を挙げてみましょう。

例えば、預金通帳の中に「ある入金」の記録があったとします。
しかしその入金の内容を補完する書類や資料が何も残っていないという場面です。

 

このような場合、調査官はまずこの入金が売上かどうか、つまり事業と関りがあるのかどうかを聞いてきます。

 

調査官「この売上(入金)が事業のものですか、どうなんですか?」
納税者「いえ事業には関係ありません。」
調査官「じゃなんで関係ありませんと言えますか?」
納税者「これはたまたま親戚の人に、貸したお金が入ってきたものですよ。」

というような、やり取りをなされたとします。

 

税務署としては、その入金を加えると売上高が1000万円超えるという場合、
「消費税を逃れたくて、嘘をついているのでは?」

と、勘ぐってしまいます。

 

この消費税に関わる、売上高1000万円になるかどうか微妙な時というのは非常に多く見られます。

通帳の中での入金しか記録が残っておらずその他の物的証拠が全くないと場面では、納税者の言質が本当かどうかというのは、税務調査の結果に大きく影響を与えます。

 

このような場面で、調査官は

「あなた本当なの?いいですか?では、述べて下さい。」といって、
質問応答記録書を作成する、という手続きをします。

物的証拠はありませんが、供述調書として言質をとって証拠を取るという事です。

 

その後、反面調査すなわち相手方の方へ調査官が赴いて、問題となった入金が実際に親戚間のお金の貸し借りのもの(私用)なのか、売上(事業)なのかの裏付けをとってくるという事になります。

 

本人の供述通り、私用のものであれば問題ありませんが、
もし本人の供述が嘘で売上であったという事がバレた場合は

勿論重加算税が付加されますし、この場合ですと売上高が1000万円を超える事になりますので、課税事業者となり消費税も追徴されることになります。

 

このように税務署は、質問応答記録書というもので証拠・言質をとっていくという事をします。

 

今回の例は、調査官がかなりわかりやすいやり方で質問応答記録書を取っていきましたが、実際の場面ではうまく言葉の誘導を行って、気付いたら質問応答記録書を作成し、

「さっきこう言ったよね?」といった事をしてくることもありますので、要注意です。

 

署名・押印を拒否できるか?

質問応答記録書は、法律上必ず作成しなければならない文書ではない為、
納税者が署名・押印する義務はありません

たとえ調査官に署名・押印を求められたとしても、
納税者側は拒否する事ができます

もちろん罰則などもありませんので、ご安心ください。

「質問応答記録書作成の手引について(情報)」(国税庁 課税総括課情報 第7号 平成29年6月30日)にも以下のように記載されています。

 

28 回答者が署名・押印を拒否した場合は、どのように対応すべきか。

 

(答)
 まず、回答者から署名・押印を拒否する理由を確認する。
 回答者が、記載内容につき追加・削除・変更の申立てがあることを理由に署名・押印 を拒否した場合、質問応答記録書の本文に当該申立て内容を追記し【問19参照】、改めて署名・押印を求める。
 特に、回答者が、「回答の中に正確でない部分がある。」などと暖昧に述べて署名・押印を拒否した場合、そのまま放置すれば質問応答記録書に記載された事項の全ての信用性が失われるので、新たな質問を行うことにより、具体的に正確ではない部分を特定し、当該事項に閨する正確な回答やその要因を記載する。
 他方、回答者が、記載内容につき追加・削除・変更の申立てがない旨を述べながら、署名・押印を拒否した場合、又は回答者が署名・押印を拒否する理由を述べない場合には、事案や回答者の言動に応じ、例えば、「訂正すべき事項があれば訂正をします。」、「内容に間違いがなければ、その正確性を確認してもらった証として署名・押印をしてもらいたいのです。」、「もし後で何か思い出したり、間違いに気が付いたら、更に話を Ⅲ‐13 聞くこともできます。」などと回答者に申し向け、署名・押印をするよう説得する。
 ただし、署名・押印を強要することはもとより、そのような疑義を生じさせる言動をしないよう留意する。
 かかる説得をしても、なお回答者が署名・押印を拒否した場合は、署名・押印を予定していた箇所は空欄のままにし、奥書において、回答者が署名・押印を拒否した旨(可 能な限り、本人から拒否理由を聞き出してそれも付記すべきである。)を記載する。また、回答者が署名・押印を拒否したものの、記載内容に誤りがないことを認めた場合にはその旨も記載する。【奥書・その他1 (4)参照】
 更に、回答者がページ欄外の確認印の押印に限り同意した場合は、これを行わせる。 【奥書・その他1 (5)参照】
 回答者の署名・押印、確認印がない場合であっても、調査担当者(質問者及び記録者)は必ず所定の箇所に署名・押印し、契印を施すなどして、書類として完成させる。
 なお、回答者の署名・押印がない質問応答記録書であっても、争訟となった場合の証拠となることから、署名・押印を拒否した理由や、記載内容に誤りがないことを認めたか否かは重要であるので、質問応答記録書にその旨を記載すべきことはもとより、回答者の署名・押印が得られなかった理由・経緯等で特記すべき事項があれば、その旨を記載した調査報告書を作成する。

つまり、手引書では署名・押印を拒否した場合でも、調査官側は署名・押印を得られなかった理由等や署名・押印はしないものの内容に同意した場合にもその旨は記載して、納税者の書類・押印欄だけ開けて質問応答記録書の書類として完成させることや説得する事とあります。
しかし、同様に署名・押印を強要することはもとより、そのような疑義を生じさせる言動をしないよう留意する。

とも、あります。
よって、知っておいて頂きたい事は

  • 質問応答記録書に署名・押印をしなかったとしても、
    調査官側は証拠書類としての信憑性を補完するための言質などを記載して書類を作成するという事
  • 署名・押印をするよう説得する事と指導してはいるものの、
    強要をしたり、納税者側が強要されたと疑いをもたせるような事はするな
    という事

これらの事が手引きの中に記載されているのです。

もし、調査官が質問応答記録書に署名・押印を強要してきた場合や、署名・押印を拒否する事は出来ないと言ったようなプレッシャーをかける場合、それは調査官の勉強不足ですのでしっかりと反論する事が大切です。

あくまで任意調査ですので、納税者側が税務調査に協力しているのであれば問題ありません。調査官の質問検査権の行使のもとの質問に無視をするとか嘘の供述をするという事はいけませんが、質問応答記録書への署名・押印するかは任意ですので、どうするかを決めるのは納税者側です。

拒否した場合は、調査官に拒否したという旨を記載してもらえればよいので、プレッシャーに負けて意に沿わない署名や押印をする必要はありません。

 

ただし、ここで納税者側の対策として大切なことは、

どのように対応するかという対応の仕方が重要になってくるという事です。

ただ単に、「質問応答記録書に署名・押印するのは嫌だ。」と拒否するだけでは
納税者側に不利になってしまうのです。

知っておくべき、対応の仕方と対策

具体的にどのような対応をしたらよいのか、出来る対策はどんなものなのかをご紹介していきます。ここでご紹介するのは、あくまで一例です。

 

自分では対応が難しいもしくは不安だなという時は、早めに税理士の立ち会いを依頼する方が安全です。特に一度質問応答記録書を作成されてからの撤回は難しいので、初めから税理士に立ち会いを依頼する事をお薦めします。

 「わからない」も立派な回答の一つ!

これは質問応答記録書に関わらず、税務調査の場面では即答や安易に同意をしたり、曖昧なまま回答をしない事が重要です。
調査官の質問に無視をしたり、嘘の答弁をしてはいけませんが、調査官の質問に即答をしたり、安易に同意をしたり曖昧なまま回答をするという事はとても悪手であると覚えておいてください。

税務調査では、回答の仕方・回答の中身が大切になると覚えておいてください。

 

では、即答や安易に同意をしないもしくは曖昧なまま回答をしないというのであれば、
調査官の質問にどのような回答をすればよいでしょうか。

それは
「今すぐには、わからない。」
「思い出せない。」
「確認をしないと、答えられない。」

と、答えて大丈夫という事です。

その他回答例をあげるとするなら

「今となっては覚えていない」とか「確認しないとわからない」「確認して後日回答します」等も有効です。

 

税務調査では往々にして調査官は

「これは〇〇だったんじゃないんですか?」

など、調査官にとって有利になるような回答を誘導するような質問をされる事がよくあります。

納税者は税務調査というかなり大きなプレッシャーを感じさせられる非日常な場面にいます。

 

多くの場合、納税者はこの大きなプレッシャーによって緊張したり、気が動転したりしていて当たり前です。

なので、安易に「そうだったかもしれません。」「そうですね。」「はい。」といったような回答をされたという方を、税務調査の途中からの依頼では多く聞きます。

つまり、一人で税務調査に臨んでいる場合、この即答や安易な同意、曖昧なままの発言は多く見られることで、その為に税務調査の結果がとても不利な形になってしまうというのはよくある事なのです。

これはどう対応したらよいのか、どの対策がよいのかといった事をそもそも知らないという事からで何も納税者の方が悪いという訳ではないのです。ただ知らなかったから、不利な結果となってしまったという事なのです。

 

このような正常な判断をするのが難しい場で、対策を知っていなければ、とっさに調査官の誘導に乗らないという事や、安易に答えない、即答ないというのは困難だと思います。

ただし、くどいようですが、安易に「そうだったかもしれません。」「そうですね。」「はい。」といったような回答はとても不利な立場に立たされるという事を覚えておいて頂きたいです。

税理士が立ち会っている場面であれば、初めから関わるのであれば、事前に税務署が重加算税を取りに来ているのかどうかを判断する事が出来ますし、対応の仕方を指導をしてもらえたり、現場でもとっさの時にフォローをしてもらう事が出来ますが、一人で調査官達と対峙している場合、正しい対応を知らないままですと、とても難しいことだと思います。

だからこそ事前に知っておいて欲しいことは

「今はわからない」というのは立派な回答の一つである

ということです。

 

例えば、45日前の朝ごはん何食べたかと聞かれて、即答できるでしょうか?

どれだけ記憶力の良い人でも難しいでしょう。

 

税務調査では、数年前の数ある取引の中から、

「これはどうなんですか?」「これはこうだったんじゃないんですか?」

と聞かれるのです。

 

余程印象的な取引であったり、目の前に全ての書類が揃っていて内容をしっかり覚えているのであっても、すぐに揺るぎない自信をもってこうだったと即答できるのはどれだけあるでしょうか?

 

調査官の誘導の質問に乗らず、わからないものはわからない。曖昧なものは曖昧なので後で回答しますといった、回答の対策をしっかりとって、安易に言質を取られないようにしましょう。安易に同意をしたり、曖昧なまま回答をしてしまったりした場合であっても、回答は回答です。一度言葉にしてしまった回答というのは、後々ずっと残ります
質問応答記録書という文書の形で残されてしまうと、署名・押印するしないに関わらず、どのような回答であれ、回答したものが文書として形として残っていきます。

 

何より、調査官の「〇〇だったんじゃないんですか?」といったような誘導にのって、
安易に「そうだったかもしれません。」「そうですね。」「はい。」といったような回答をしてしまった故に

その内容を質問応答記録書に記載され、署名・押印を求められるという事はよくあります。

納税者が拒否したとしても

「でも、貴方(貴女)さっきそういったじゃない。間違ってないでしょ?間違ってないのになんでサインできないの?嘘言ったの?」と、ぐいぐい責められるという事は、とても多いケースですので、調査官への回答には注意しましょう。

 

質問応答記録書は納税者の手元に残らない

次に、質問応答記録書は納税者側が署名・押印するしないに関わらず、

納税者側の手元には残りません

 

どういう事かと申しますと、原本をそのまま税務署が持って帰ってしまい、複写をとって納税者側に渡すという事はしてくれないという事です。

 

そんな理不尽な!!!
と、思われるかもしれませんが、これが現状です。

 

だからこそ、この原本が残らないという事を逆手にとって出来る対策もあるという事です。

 

対策その1

質問応答記録書は納税者側の署名・押印の有無に関わらず、原本をそのまま税務署が持って帰るという事をお伝えしました。

 

これは後々、言った言わない等の問題が起きた時に、税務署側は質問応答記録書という供述調書として納税者の言質を記録した証拠を持って税務署側の有利になるように動きますが、納税者側は、複写を残してもらうことが出来ず、税務調査の場で自身がどのような発言をしたか覚えていないという不利な形に追い込まれてしまします。

 

だからと言って、納税者側が何も出来ない訳ではありません。

まず、質問応答記録書というのは証拠として使用されると何度も言っていますが、動かす事の出来ない物的証拠ではなく、あくまでも供述調書です。

加えて、納税者は大きなプレッシャーを与えられる税務調査と言う場で、気が動転したり、緊張してしまい間違った事を言ってしまう事だってあります。

 

なので、たとえ質問応答記録書を取られていたとしても、

後日訂正をするという事も可能なのです。

これは、そもそも知らない人が多いのですが、ちゃんと手続きを踏めば質問応答記録書を後日訂正する事は可能です。

 

税務調査後、冷静になって事実確認をしたところ、発言に誤りがあったり、記憶が曖昧なまま答えており、記憶を思い出したところ税務調査時での発言に誤りがあったという事も往々にあります。

このような場合、少し手続きに手間がかかりますが、

前回ああいう話はしたけれども、よく考えたら違いましたと。いう申立てが出来、間違っていたという内容を踏まえたことを記載した質問応答記録書をもう一度作ってくれと、いう事は可能なのです。

ですので、間違った発言をしてしまっていたという場合は、税務署にその旨を申し立てて、質問応答記録書の内容を訂正してもらいましょう

 

この申立ては納税者自身が行う、若しくは代理権限証書を提出し税理士に代理を依頼するという手続きを行った場合は、税理士が行う事になります。この税理士への依頼は質問応答記録書を取られた後であっても、手続きを行えば税理士に委託する事が出来ます。

 

この場合にメリットは、本来であれば手に入れる事が出来なかった質問応答記録書の複写を手に入れる事が出来るという事です。

質問応答記録書は原本をそのまま税務署が持って帰ってしまい、本来であれば納税者の手元には複写であっても残るという事はありません。
しかし、この質問応答記録書は公文書になりますので、個人情報の開示請求で複写を手に入れることが出来ます

 

税務署に、何月何日質問応答記録書の写しをくれ、という個人情報の開示請求をする事で、手数料を取られますが、原本のコピーを手に入れることが出来ます。

この個人情報の開示請求の手続きをするとそのまま黒塗りなしのコピーがもらえます

 

その後その複写を持って、再度税務署に「ここのところ、ちょっと私記憶が定かではなかったので言い間違えました」と伝えてもらえれば、税務署は「ああそうですか」と聞かざる負えないので、訂正をしてもらう事ができます。

 

対策その2

質問応答記録書は納税者側の署名・押印の有無に関わらず、原本をそのまま税務署が持って帰り、納税者に複写を残すということしないという事をお伝えしました。

 

個人情報の開示請求という手続きを踏めば、手間と手数料がかかるものの複写を手に入れることが出来るともお伝えしました。

 

でも質問応答記録書を取られた時に、どうしても署名・押印をしたくないという時、ただ「サインもハンコも押したくない」と言ってただ闇雲に拒否するだけでは「さっき自分がそう言ったじゃない。嘘だったの?」と言ったような形で、納税者側を不利な立場に追い込んで何とか署名・押印をさせる手段にでるともお伝えしました。

 

では、どうしても署名・押印をしたくない時、どう調査官と渡り合えばよいのでしょうか。

 

それは、理不尽だ!と思える複写をもらえないという事を逆手にとって

「複写をくれるのであれば、署名・押印します。」というやり方があります。

 

「自分たち(調査官側)は持っているけれども、こっち(納税者側)何も残らないじゃないか。だからそれをくれるんだったら、署名・押印しましょう」というやり方です。

 

何度も言いますが、質問応答記録書の複写は納税者にはくれません。

例えば税務調査の結果、税務署側から提示された内容に不服があり、修正申告を出さず、審査請求を出したとしても、税務署側は質問応答記録書の原本を持っていますので、「いや、あなたは何月何日に署の応答記録書にこういうことを言っています」と言われます。しかし、納税者側は覚えていない事の方が多い。
何故なら審査請求や再調査になった時には、この質問応答記録書を作成した出来事の3か月も4か月も先の事なので。複写として文書を持っていない納税者側は「いや、そんな事、言ったかな~?」となる事が多いのです。

 

では、その発言の内容を取り消すには、
対策その1でご紹介したような、訂正を行う必要があります。

すなわち「『何月何日に回答した質問応答記録書の問何番のところのその質問については、緊張してたのか気が動転していたのか、誤って回答していました。』という事を、もう一回質問応答記録書を取って下さい」という訂正の手続きを事をやらないといけないでしょう。

でも、本当に戦いに行くというなら、この手続きをする必要がありますが、実際は税理士であっても納税者側の強い希望があったり、余程の事ない限りこの手続きをする事はそこまで多くはありません。

 

ですので、署名・押印をしたくないけれど、穏便に対処したいというのであれば

「複写をくれるのであれば、署名・押印します」と交渉してみて下さい。

どう転んでも、税務署は複写を渡す事は出来ませんので、「じゃあ署名・押印はいいです」と引き下がらず負えなくなります。

 

加えて、「本当に回答が欲しのでしたら、時間を下さい。」と伝え、

「例えば『何月何日の取引について調べて』とか、個別にきちっと質問を紙で出してください。そうすれば私達も文書で回答しますから。」と交渉してみるのも良いでしょう。

 

そうすれば、税務署側の質問も、納税者側の回答も全て文書として記録を残せることになります。

何にせよ、今のこの質問応答記録書のやり方だと納税者側には何も記録が残らないというデメリットが納税者側になります。

税務調査の結果に納得がいかず再審請求をしたとしても、供述調書を税務署に握られており納税者側の手元には複写といった証拠が何一つ残っていないので、出来るだけ不利になる事は避けた方が良いでしょう。

 

質問応答記録書がメリットになる事も!?

質問応答記録書は基本的には納税者側に不利になる事が多いものです。

では時に質問応答記録書がメリットなる事もあります。

 

これは、帳簿をしっかりつけていない上、領収書等の資料・書類も全て捨ててしまっていた場合、推計課税になります。

 

まず言葉の説明ですが、
推計課税とは、売上や所得・経費等の詳細が分からない場合に、
「近隣の同規模同業者の差益率、すなわち仕入金額に対する収入金額の比率」や「水道光熱費やその他事業に必要な経費の金額」等より、売上や所得を間接的に推計し、推計額に対して課税を行う方法の事です。

 

この推計課税になる場合、この質問応答記録書に応えて署名・押印する事で、物的証拠となる領収書等の書類や資料が残っていなくても、経費として認められる事もあります。

 

まとめ

今回は税務調査で大きな論点の一つである、質問応答記録書についてご紹介しました。

 

とても重要な内容ですので、このまとめだけでもしっかりと覚えておいてもらえればと思います。

 

まず、調査官が何か文章を紙に書き出して、あなたこう言ったよねとサインなどを求めてきたら、それは非常に調査の結果に大きな影響を与える大事な事と1つ知っておいて下さい。

これが質問応答記録書です。この内容は調査官との会話の内容を調査官が今後自分達に有利にものを動かすための布石として必要だと判断して作成した文書です。

 

質問応答記録書は法律上必ず作成する必要のある文書ではありません。よって、納税者側に署名・押印する義務もありません。

 

ただ、税務署は当然税務署側に有利に物を動かしていきたいので、なんやかんやと断りづらくする言葉を使って、納税者側に署名・押印させようとします。

ですので、ただ単に「サインやハンコを押したくない」と拒否するだけでは不利になります。

 

しっかりと、回答の仕方・対応の仕方を事前に準備しておきましょう。

 

特に気を付けておくべきは、即答しない・安易に同意しない・曖昧なまま回答しないです。

調査官はたくさんの経験を積んでいるため、あの手この手で誘導してきます。

 

「わからない。」という回答は立派な回答の一つです。

 

どうしても、対応が難しいと思われる時、事前にアドバイスが欲しい、税務調査の現場でとっさのフォローがあった方が安心するといった場合は、税理士に立ち会いを依頼しましょう。

永江 将典

公認会計士・税理士
プロフィールへ


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


コメントする