ネットショップ・EC事業者の税務調査対策|売上・在庫・入金の確認ポイント
ECの売上と入金のずれを説明できる帳簿づくり
ネットショップの入金額と売上管理画面の数字が合わず、「税務調査でどう説明すればよいのか」と迷うことはないでしょうか。ECでは、手数料、返品、複数店舗の精算時期、倉庫在庫などが重なり、銀行口座だけでは取引の全体を把握できません。結論は、注文から引渡し、売上計上、精算、入金までを注文番号などで結び付けることです。差額そのものより、なぜ差額が生じたかを確認できる記録が重要になります。この記事では国内の商品販売を中心に、2026年10月時点で注意したいインボイスの改正も含め、EC事業者が調査前に点検したい事項を説明します。越境取引は別の確認が必要です。
結論:入金額をそのまま売上にしない
モールや決済代行会社からの振込額は、商品の販売代金から販売手数料、広告費、返金などを差し引いた精算額であることがあります。その金額を売上として入力するだけでは、売上と経費の両方が小さく表示される可能性があります。
まず、自社が商品の売主なのか、販売を仲介して手数料を受け取る立場なのかを契約で確認します。以下は、自社が商品を仕入れ、顧客に販売する事業者を想定しています。顧客が支払った代金、事業者が負担する費用、モールが送金する額を区別して整理してください。
管理画面の「売上」という名称も、そのまま会計上の売上を意味するとは限りません。未発送注文を含むのか、返品前か返品後か、送料を含むのかを確認します。帳簿と照合する前に、各データの対象期間と項目の定義を合わせることが先です。
計上時期と返品処理を確認する
商品販売の売上は、通常、商品の引渡しに基づいて計上します。出荷日や検収日などのうち、取引内容に照らして合理的な基準を採り、継続して処理することが大切です。注文受付日、代金の入金日、モールの締め日が必ず売上日になるわけではありません。個人の現金主義の特例などは、要件を満たして適用しているかを別に確認します。
期末に注文を受け、翌期に発送したものや、期末までに引き渡したのに入金が翌期になるものを抜き出すと、期間のずれを点検できます。売上が計上済みで未入金なら、売掛金などの残高と翌期の回収を照合します。返品も、申請日、承認日、商品の戻り日、返金日が違うことがあります。
値引きやポイントには、店舗の負担なのか、プラットフォームから補填されるのかという違いがあります。表示上の顧客支払額だけを見て判断せず、精算規約と明細を照合してください。返品時には売上側だけでなく、再販売できる商品が在庫へ戻ったかも確認します。
説明用の仮定例1:売上110万円なのに入金が99万円
ある月に引渡しが完了した税込売上が110万円、同月の返品による返金が5万5,000円、販売手数料が5万5,000円で、他の調整がないと仮定します。入金は110万円-5万5,000円-5万5,000円=99万円となります。
返品を反映した売上は104万5,000円で、手数料は売上とは別に処理します。99万円だけを売上にすると、5万5,000円の手数料と対応する売上が帳簿から見えなくなります。これは税込金額での精算の説明であり、消費税申告の控除額や所得金額を確定する計算ではありません。
倉庫にある商品も棚卸しの対象として検討する
商品を買ったときに全額をその期の売上原価にするとは限りません。基本的な売上原価の計算は「期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高」です。売れていない商品が残っている場合、期末在庫を確認しなければ利益を正しく計算できません。
在庫は自社の棚だけでなく、外部倉庫、モールの配送拠点、委託販売先なども確認します。一方、他社から預かっているだけの商品まで自社在庫に含めないよう、所有関係を区別します。輸送中の商品は、契約による引渡しや仕入計上の時点を確認してください。
売れ残りを一律にゼロ円にすることも避けます。評価方法とその適用条件を確認し、破損や廃棄があれば数量、状態、処分日、処分方法が分かる記録を残します。在庫評価の見直しは、販売価格が下がったという理由だけで自由にできるものではありません。
説明用の仮定例2:外部倉庫の在庫が棚卸表から漏れた
期首在庫が50万円、当期仕入れが300万円、期末在庫が自社保管30万円と外部倉庫40万円だったと仮定します。すべて同じ評価方法で集計し、他の調整がない場合、売上原価は50万円+300万円-70万円=280万円です。
外部倉庫の40万円を落とすと、売上原価は320万円となり、40万円過大になります。倉庫明細を入手するだけでなく、その残高の日付と決算日が一致しているかを確認することが重要です。二つのケースはいずれも説明用に設定したもので、実在事業者の相談事例ではありません。
2026年10月のインボイス経過措置は改正後で確認する
一般課税で仕入税額控除を計算する場合、仕入先の登録状況と請求書等の保存を確認します。免税事業者などインボイス発行事業者以外からの課税仕入れには経過措置がありますが、令和8年度改正により、2026年10月1日から2028年9月30日までの控除割合は70%となりました。改正前に予定されていた50%を、そのまま2026年10月の取引に使わないようにします。
この措置には、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等と、経過措置の適用を受ける旨などを記載した帳簿の保存が必要です。仕入代金の70%を控除する制度ではなく、対象となる仕入税額相当額の70%を控除する仕組みです。非課税取引まで対象になるわけではありません。
一の免税事業者等からの対象仕入れに係る税込合計額の上限も、2026年10月1日以後に開始する課税期間から、年または事業年度で10億円から1億円へ引き下げられ、超過部分には適用できません。控除割合が切り替わる取引日と、上限変更が適用される課税期間の開始日を混同しないことが重要です。国税庁「令和8年度税制改正特集」で改正内容を確認できます。
なお、簡易課税や2割特例は別の計算方式です。少額特例や古物商特例など、要件を満たす別の扱いもあるため、未登録の仕入先があれば必ず70%と機械的に処理するのも適切ではありません。自社の課税方式と取引内容を先に確認しましょう。
データ保存と準備の手順
ECでは注文履歴だけを保存しても、請求書や精算明細の代わりになるとは限りません。電子で授受した請求書などの取引情報は原則として電子保存が必要です。保存要件への対応が難しい場合の猶予措置も、元データを捨ててよい制度ではありません。詳細は国税庁「電子取引関係」を参照してください。
- 販売サイト、決済会社、入金口座、倉庫を一覧にし、閉鎖済み店舗も含めて記録の所在を確認します。
- 注文、発送、返品、精算のデータを確保し、注文番号や精算番号で相互にたどれるようにします。
- 月次売上と帳簿を照合し、手数料控除、未入金、翌月繰越しを差額一覧にまとめます。
- 決算日の在庫と仕入計上を確認し、外部倉庫の残高証明や在庫明細を保存します。
- 仕入先ごとに登録状況、税区分、経過措置の設定を確認し、2026年9月以前と10月以後の取引を点検します。
会計ソフトの連携を変更した月は、手入力と自動取込みの重複も確認します。元データはそのまま保存し、説明用の加工表には作成日と元ファイル名を残してください。越境販売、輸入、プラットフォーム経由の海外サービス利用は、国内販売と同じ税区分とは限らないため、個別に税理士へ確認します。
よくある質問
Q1. モールの振込額だけを売上にしてもよいですか?
A1. 自社が売主で、手数料などが引かれているなら、通常はそれだけでは不十分です。販売代金、返品、手数料、繰越残高を分け、振込額に至る計算を確認します。まず精算明細の各項目を調べてください。
Q2. 未発送の注文も売上に含めますか?
A2. 注文を受けただけで一律に計上するものではありません。引渡しの状況と継続している合理的な計上基準を確認します。入金済みでも未引渡しなら、前受金として整理する必要がある場合があります。
Q3. 外部倉庫の商品は自社の棚卸しから外せますか?
A3. 保管場所が外部という理由だけでは外せません。自社に帰属する商品かを確認し、該当する在庫を棚卸表へ反映します。倉庫の集計日が決算日と異なる場合は、その間の入出庫を調整します。
Q4. 2026年10月の未登録事業者からの仕入れは50%控除ですか?
A4. 改正後の経過措置では、要件を満たす対象取引の控除割合は70%です。購入額の70%ではありません。一般課税かどうか、取引日、証憑、帳簿記載、他の特例の有無を確認して適用します。
Q5. 返金された注文は履歴から削除してよいですか?
A5. 削除せず、元の注文と返品・返金を結び付けて残します。取消しと返品でも処理が異なることがあり、売上と在庫の両方に影響します。返金日だけでなく、商品の戻りや承認の記録も確保します。
Q6. 管理画面を見られれば、データ保存は不要ですか?
A6. 必要期間にわたり要件を満たして確認・出力できるかが問題です。閲覧期限や解約後の利用制限がある場合は、必要なデータを事前に保存します。画面上にあるというだけで保存義務を満たすとは限りません。
Q7. 税務調査に向けて最初に作る表は何ですか?
A7. 店舗別・月別の売上から、返品、手数料、繰越しを経て入金に至る照合表が有用です。不一致の月を特定できたら、注文単位へ掘り下げます。全件を見直す前に、集計範囲の違いを確認すると整理しやすくなります。
まとめ
ECの税務調査への備えは、売上、精算、入金、在庫を別々に把握し、相互に照合することから始まります。各サービスの数字の意味を確認し、期末の引渡しと在庫を点検してください。2026年10月の経過措置は改正後の70%と適用条件を確認し、旧設定のまま処理しないようにしましょう。
