不動産賃貸業の税務調査で確認したい経費|修繕費・借入金・家事按分の注意点
賃貸物件の経費を資料で説明するための確認事項
賃貸物件の修理代やローン返済を帳簿に入れたものの、「どこまで経費になるのか」「税務調査で説明を求められたら何を用意するのか」と不安になることはないでしょうか。結論として、支払いがあっただけでは必要経費とは決まりません。賃貸業務との関係、支出の内容、計上する年、資産として扱うべきかを確認する必要があります。特に、修繕費と資本的支出、借入金の元本と利息、私用を含む費用の区分は、資料をそろえて判断したい項目です。この記事は個人の不動産所得を中心に、2026年10月時点の基本的な扱いと、物件ごとの説明資料を整える手順を紹介します。法人所有の物件は別途確認してください。
結論:領収書に加えて支出の目的と対象物件を示す
不動産所得の必要経費は、不動産収入を得るために直接必要な費用などです。管理料、固定資産税、保険料、減価償却費などが候補になりますが、私生活の支出まで含めることはできません。領収書は支払った事実の資料であり、業務との関係をすべて証明するものではありません。
複数の物件があれば、物件名、部屋番号、作業内容、対象期間を帳簿や補助表に記載します。自宅と賃貸部分が同じ建物にある場合は、請求額のうち賃貸に対応する部分を区別してください。支出先が同じでも、修理、増設、私用の工事が一枚の請求書に混在することがあります。
支払日だけで計上年を決めることにも注意が必要です。一般に、その年の債務として確定しているかを確認し、翌年分の前払いや未払費用を整理します。所得税の経費の基本は国税庁「必要経費の知識」に示されています。
修繕費か資本的支出かは工事の実質で判断する
通常の維持管理や原状回復のための支出は修繕費に当たり得ます。一方、使用可能期間を延ばしたり、資産価値を高めたりする部分は資本的支出として扱い、原則として減価償却を通じて必要経費に算入します。請求書の表題が「修繕工事」であっても、それだけで全額をその年の経費にはできません。
既存設備の通常の交換と、新たな設備の追加を分けて確認してください。工事前後の写真、見積書、仕様書があると、何が変わったかを把握できます。施工業者に説明を求める場合も、結論に合わせて請求書の名目を変えてもらうのではなく、実際に行った作業の内訳を確認します。
修理・改良の金額が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行われる場合などには、修繕費として扱える基準があります。また、資本的支出か修繕費か明らかでない金額については、60万円未満、または対象資産の前年末の取得価額のおおむね10%以下という基準もあります。必要な申告上の処理を含めて条件を確認してください。
特に「60万円未満ならどんな工事でも経費」と覚えるのは誤りです。明らかに資本的支出に当たる部分に、不明な場合の基準をそのまま当てはめることはできません。請求書を分割すれば一つの工事を小さく判定できるわけでもありません。詳細は国税庁「修繕費とならないものの判定」を参照してください。
説明用の仮定例1:原状回復と新設工事が同じ請求書にある
賃貸物件で、傷んだ箇所を従来の状態へ戻す工事が40万円、新たな避難階段を取り付ける工事が80万円、合計120万円だったと仮定します。内訳が明確で、前者が通常の原状回復、後者が建物への物理的な付加に当たることを確認できたとします。
この前提なら、40万円は修繕費、80万円は原則として資本的支出として検討します。120万円全額を修繕費にする処理とは異なります。80万円についてその年に必要経費へ算入できる減価償却費は、資産の種類、供用時期、償却方法などが必要なため、この情報だけでは計算できません。
借入金は元本と利息を分ける
賃貸物件の取得資金を借りて返済している場合、毎月の返済額には元本と利息が含まれていることがあります。元本の返済は負債を減らす取引であり、そのまま必要経費になるものではありません。賃貸業務のための借入利息は、必要経費として検討します。
土地と建物を購入しているときは、その取得価額や資金の使途も確認します。土地は減価償却の対象ではありません。建物などの取得費用は、元本返済と切り離して、固定資産台帳に基づく減価償却等で処理します。ローン返済額を経費にし、さらに建物の減価償却費も計上すると、誤った二重処理につながります。
個人の不動産所得が赤字の場合には、土地等を取得するための借入利息に相当する部分の損失は、他の所得との損益通算ができません。借入利息として必要経費になるかという問題と、その結果生じた赤字を給与所得などと通算できるかという問題を分けて考える必要があります。
説明用の仮定例2:毎月の返済額を全額経費にした
毎月のローン返済が12万円で、返済予定表上の元本が9万円、利息が3万円、12か月とも同額だったと仮定します。年間返済額は144万円ですが、内訳は元本108万円、利息36万円です。すべて賃貸業務のための借入れであっても、144万円全額を利息として経費計上することはできません。
必要経費となる利息の検討対象は36万円です。実際には元本と利息の割合が毎月変わる契約もあるため、銀行の明細で年間額を集計します。土地取得分が含まれ、赤字になっている場合は、損益通算の制限も別に計算します。これは説明用の仮定であり、実際の相談結果ではありません。
家事按分・空室・管理会社の精算を確認する
自宅兼賃貸物件の費用や、私用にも使う車・通信費は、業務部分を合理的に区分します。面積、使用時間、走行記録など、費用の性質に合う基準を選びます。どの費用も一律に半分にする方法では、なぜその割合なのかを説明できない場合があります。
現地確認の交通費なら、訪問日、目的、物件、移動経路を残します。家族旅行の途中で短時間物件を見たからといって、旅行全体が業務経費になるとは限りません。業務上必要な部分を区別できるよう、予定や支出の内容を確認します。
空室期間の支出は、家賃が入っていないという理由だけで直ちに経費から外れるわけではありません。入居者募集を継続しているか、賃貸に供する状態を維持しているかなどの事実を確認します。反対に、貸す予定をやめて私用に転じた後の支出は、その実態に沿った検討が必要です。
管理会社からは、家賃から管理料や修理代を引いた残額が振り込まれることがあります。収入を振込額だけにすると、経費の内訳も分からなくなります。家賃収入と控除項目を分け、管理会社の月次報告を帳簿へ照合します。住宅家賃の消費税上の扱いと、所得税上の必要経費の判断は別の問題です。
税務調査に向けた準備手順
- 物件一覧に所在地、取得日、用途、貸付状況をまとめ、自用部分や用途変更の時期を確認します。
- 工事ごとに請求書と見積書をそろえ、作業内容、工事前後の状態、完成日を整理します。
- 借入金の返済予定表と実際の返済明細を照合し、元本、利息、資金使途を区別します。
- 固定資産台帳を前年の申告資料と照合し、取得価額、耐用年数、供用月、資本的支出の追加を確認します。
- 家事按分表と管理会社の精算表をそろえ、帳簿との差額や判断が未確定の項目を一覧にします。
調査前に作る説明表は、当時の資料を読みやすくするためのものです。過去の写真や工事記録がない場合は、そのことを明記し、施工業者の保管資料など確認可能な情報を探します。契約内容や複合工事の区分が難しいときは、見積書と前年の申告書を持って税理士へ相談すると論点を絞れます。
よくある質問
Q1. 工事代が60万円未満なら全額修繕費ですか?
A1. 一律ではありません。この基準は資本的支出か修繕費か明らかでない金額についての扱いです。何を直したのか、性能や用途が変わったかを先に確認し、明らかな資本的支出を金額だけで修繕費にしないようにします。
Q2. 修繕費を分割払いにすれば、その都度判断できますか?
A2. 支払回数と一つの修理・改良の範囲は別です。同じ工事を分割払いにしただけで、各回の金額を基準に少額判定できるとは限りません。契約と工事の全体を確認し、計上年も債務の確定などに基づいて判断します。
Q3. ローンの返済は家賃を得るためなので全額経費ですか?
A3. 元本返済は経費ではありません。利息と元本を返済明細で分けます。建物の取得費用は減価償却などのルールで処理し、土地には減価償却を行わないため、取得時の土地・建物の区分も確認してください。
Q4. 自宅と賃貸部分の共通費用はどう分けますか?
A4. 面積や使用状況など、支出の性質に合った合理的な基準で業務部分を区分します。計算表だけでなく、間取りや利用実態の資料も残すと説明しやすくなります。前年と割合を変えた場合は、変更理由を確認します。
Q5. 空室中の管理料は経費にできませんか?
A5. 空室であることだけでは決まりません。継続して賃貸のために募集・維持管理をしているか、私用へ転用していないかなどを確認します。募集契約や管理報告書は、貸付けの状況を説明する資料になります。
Q6. 管理会社が経費として控除していれば、そのままでよいですか?
A6. 管理会社の精算区分と税務上の扱いは必ずしも一致しません。修理の内訳や対象期間を確認し、資本的支出、前払金、私用分などが含まれていないかを点検します。振込額と経費の二重計上にも注意します。
Q7. 領収書がない経費はどう確認しますか?
A7. まず再発行や請求書の写し、契約書、振込記録などを集め、相手先と内容を確認します。振込記録だけで業務上の必要性がすべて分かるとは限りません。資料が足りない部分を明確にして、処理の妥当性を検討します。
まとめ
不動産賃貸業の経費は、対象物件と業務目的を示し、修繕・資産取得・借入返済・私用の支出を分けることが基本です。特に工事費は実質、借入金は元本と利息、共通費用は按分根拠を確認してください。管理会社の精算表と固定資産台帳までつなげておくと、申告に至る計算を説明しやすくなります。
