家族・親族へ払う給与・役員報酬の税務調査での扱い

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永江 将典

公認会計士・税理士
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役員報酬を使って節税しましょう!

と本で読んだり、税理士から進められて奥さんや子供、お父さん・お母さんを役員にして役員報酬を払っている会社も多いのではないでしょうか。しかし、安易に支払額を決めると税務調査で否認され、結果節税どころか税金を多く払うことになってしまいます。

今回は、そんな役員報酬に対し国税調査官がどのようなツッコみをいれてくるか紹介しつつ、税務調査での対策をお伝えします。

家族・親族へ払う給与・役員報酬の税務調査での扱い(過大な役員報酬)

節税をするため(所得を分散するため)、会社を作って、家族を役員にして、役員報酬を支払っている会社も多いかと思います。また、役員ではなくても、従業員としての立場で、給与を払っているケースもあるかもしれません。
家族へ支払っている役員報酬なり給与は、税務調査でもポイントになりやすいですので(調査官がケチ?をつけてきやすい)、原因と対策を紹介します。

家族に支払っている役員報酬・給与で調査官が指摘するポイント

役員報酬の税務調査

ずばり、結論をいいます。

税務調査の際、調査官が何を指摘してくるかというと・・・

この人に払っている役員報酬・給与は多すぎるのではないか?という指摘です。
実際、税務調査を途中から依頼いただく場合、この点で調査官ともめている(合意できない)ケースが多いです。

法人税法36条では、以下のように明文化されています。

(過大な使用人給与の損金不算入)
第三十六条 内国法人がその役員と政令で定める特殊の関係のある使用人に対して支給する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

特殊の関係のある使用人とは、次に該当する人です。

1.役員の親族
2.役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者
3.1及び2以外の者で役員から生計の支援を受けているもの
4.2及び3の者と生計を一にするこれらの者の親族

不相当に高額がどうかの判断基準は、給与・賞与について言えば、

不相当に高額かどうかは、その使用人に対して支給した給与の額が、その使用人の職務の内容、その会社の収益、及び他の使用人に対する給与の支給の状況、その会社と同種同規模会社の使用人に対する給与の支給状況等に照らして相当かどうか

で判断されることになります。

特殊の関係のある使用人については、わかりやすいと思いますが、不相当に高額がどうかはこれだけではわかりませんよね。だからこそ、税務調査では論点になりやすいのです。

よくあるケースについて紹介します。

特殊関係にある使用人に対する役員報酬否認事例その1

例えば、奥さんに月100万円給与を払っているケースです。

奥さんはどのような業務をやっているかというと、経理しかやっていません。しかし、経理スタッフを一人雇おうと思ったら、世間の相場はせいぜい30万円~50万円程度ではないでしょうか。ですので、調査官はこう指摘します。
奥さんの給料は、業務内容と照らして、世間相場と明らかに乖離しており、給料の金額が高すぎます!

実際、奥さんが担っている業務が領収書の整理や請求書の作成、経理ソフトへの入力といった普通に採用したスタッフが交代してもできるような仕事の場合、スタッフにやってもらうなら、やっぱり月100万円給料を払う、ということはないと思います。毎日8時間労働で、土日は休み。働き方は、他の従業員と同じ。

であれば、明らかに給料が高すぎますよね。このように、仕事の内容・世間の給料の相場と照らして、家族への給料の支払いが高すぎないかチェックされます。

特殊関係にある使用人に対する役員報酬否認事例その2

他にもこのようなケースがありました。

同じように、奥さんに月20万円給与をはらっているケースです。奥さんがやっている業務は、ホームセンターなどで社長の代わりに材料や消耗品の購入をやっています。これもよくある話ではないでしょうか。
上記のように100万円払っているケースと比べれば、金額的に問題なさそうにみえますが、材料や消耗品を購入するために、ホームセンターなどに毎日行きますか?緊急な場合を除けば、そのような非効率な動きはしないと思います。ホームセンターに行くだけでも大変ですもんね。

また、労働時間についても他の仕事をしていない前提であれば、1日当たり8時間もないでしょう。やっぱり20万円は高いのでは?と指摘を受けました。

このように金額に関係なく、奥さんのような親族への支払については、税務調査ではチェックされることが多いです。よって、金額が小さいから関係ないではなく、しっかりと説明できるように準備しておく必要があります。

特殊関係使用人の役員報酬はいくらが適切か?

役員報酬の税務調査

では、いくら以上からが高いと指摘されるのか、というと明確な基準はありません。上記の通り、不相当に高額がどうかの判断基準にも明示されていませんでした。
その結果として、100万円でも20万円でも疑われるわけですから。

このあたりが税務調査の難しいところであり、最終的にどのあたりに着地するかは、一概にお伝えできないところです。

私の顧問先に、奥さんへの報酬金額を明確にするために、お願いしている業務を棚卸し、それぞれの単価と作業時間を明確にしたうえで、給与を決定している方もいます。実務上、ここまで整理することは難しいと思いますが、奥さんへ支払った金額について、ある程度、合理的な説明ができるようにする必要がありますね。

家族への役員報酬の場合

少し視点を変えてみます。

これまでは家族への給与という視点で説明してきましたが、家族への役員報酬の場合はどうなるのでしょうか。先ほどの経理業務をまったく同じ条件で奥さんが仕事をしていたとしても、役員として会社に所属している場合はちょっと話が変わってきます。

スタッフとしてのポジションの場合、仕事してくれてありがとう!という、作業量に対する給料の払いです。だからこそ、残業していれば、その分上乗せして給料を支払うのは当然です。ですので、税務調査では、週に何日働いているのか?どのような作業を担っているのかを集中的に聞いてきます。

しかし、会社役員の場合は、労働時間は関係なく(残業したから報酬が増えた!とはなりませんよね)、会社の意思決定に参加することが大事な仕事になります。つまり、従業員とは負っているリスクが全くことなります。
例えば、奥さんが会社の借入金の連帯保証人になっていたとしたら・・・これはもう、スタッフとはあきらかに責任の範囲が異なってきます。

ですので、役員の場合は作業量に対する支払いというより、役員という責任ある立場に対する報酬の支払いとなってきます。

ですので、税務調査の際に調査官が従業員の給料と同じ理屈で役員報酬が高すぎる!と言ってきた際は反論の余地があります。

どうやって反論するかですが、結局のところ、責任を負っているという事実を説明してあげることです。上にも書いた通り、借入金の連帯保証人になっていればその資料を提出すればよいでしょうし、役員が経営会議に参加することも多々あると思います。その場合には、しっかりと議事録を残し、その議事録を提出すること、等々。

また、役員が複数いれば、担当する役割も違ってくるので、その点も明確にしておいた方が良いでしょう。

その他の論点

給与・役員報酬はその他にもたくさん論点があります。

典型的な論点は、支払っている報酬は実質的に給与なのか?外注なのか?これは多額の外注費を計上していると必ずチェックされる項目です。その他にも、借上げ役員社宅の役員への低額貸付や役員のみを対象とした人間ドックの検診料の負担等々、特に役員報酬関係は税務調査では論点になりがちです。

これらの論点については、長くなってしまうので、また違う記事で書くことにします。

これからも税務調査で損をしないための交渉術や、確定申告の節税に役立つ情報を紹介します。是非、参考にしてみてください( ´∀`)

永江 将典

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