個人の税務調査でも反面調査で取引先まで調べることはあるか?
結論からお答えします。
「あります」
そうなのです。個人の税務調査でも必要と判断された場合、反面調査で取引先まで調べられる事があります。
反面調査により、取引先の関係の悪化や信用を著しく失う事も考えられる為、出来るかぎり避けたいと思うのが心情だと思います。
では、そもそも反面調査とは何か、またその目的や方法、反面調査を拒否する事は可能なのか、反面調査をされない為の必要な対策などについて以下7つの項目に分けて書いていきたいと思います。
反面調査とは
税務調査の一種です。
調査官が『客観的にみて』必要と判断した場合
「税務調査に選ばれた対象と関係する銀行や取引先に向けて行われる調査のこと」をいいます。
なぜ反面調査を行うのか
反面調査の目的は、
本来の対象を調査するだけではわからない事実を明らかにしたい場合に行われます。
つまり、自身に対する本調査(自身に対して実施されている税務調査)で、
調査官が
「帳簿や現状の確認だけでは終わるのが難しい」や
「調査をしてみて不自然な点が多い」など
本調査だけでは事実確認を取れたというには難しいと判断した場合、
銀行や取引先を調査することで、取引の実態や金額を正確に把握するために行われる調査のことです。
例えば、
こちらが100万円の売上なら相手は100万円の経費になっているはず。
こちらが100万円の売上にしているのに相手が80万円しか経費にしていなかったら…
どちらかが間違っているか嘘をついている事になります。
このようにお互いにちゃんと同じ金額となっているかどうかを確認するのが反面調査です。
具体的的に、反面調査が必要と判断されるケースとしてよくあるのが、
①帳簿の不備があった時
②調査に対して非協力的もしくは不誠実な態度であった時
③脱税の疑いがありそうな時
などです。
①の例として、帳簿が正しく記載されていない、もしくは過去5年分の帳簿を保管できていないと反面調査に発展しやすいとされています。
②の例として、非協力的な態度とは、調査官の質問に答えなかったり、感情的な発言を繰り返したり、帳簿などの提出に応じなかったりした場合などがあげられます。
不誠実な態度とは質問への回答はするものの回答が曖昧だったり、何度も要求しないと帳簿を提出しないような態度の場合です。
①②③以外にも、
申告内容と調査内容に差異があった場合
にも反面調査が行われる可能性が高くなります。
まとめると、上記でも記載した内容と被りますが、
調査官が「対象のみでは調査が完了できない」と判断した場合、反面調査を実施されることになります。
反面調査の対象先
反面調査の対象は、主に以下のような関係先に実施されます。
①売上の計上漏れの疑いがある場合 ⇒ 売上先に対して行う
②仕入の計上漏れの疑いがある場合 ⇒ 仕入先に対して行う
③架空外注費を計上している疑いがある場合 ⇒ 外注先に対して行う
④架空経費を計上している疑いがある場合 ⇒ 支払先に対して行う
⑤架空人件費を計上している疑いがある場合 ⇒ その雇用者に対して行う
⑥在庫の管理を外部の人間に任せている場合 ⇒ その任せている者に対して行う
⑦家賃を支払っている場合 ⇒ 大家への確認と、現地調査を行う
反面調査方法
反面調査の方法は以下の3つがあります。
・文書による照会
・電話連絡による照会
・相手先に出向く臨場確認
以上のいずれかの方法により、反面調査が行われ、
本調査において疑わしい、事実を確認する必要があると判断された点の確認をされます。
反面調査は事前に通達がされるか
反面調査は事前に通知されません。
これは、あらかじめ取引先と不正にやり取りする事を防ぐためです。
また、反面調査の実施については、自身の本調査が終わってから行われるといった規定もありません。
調査官が税務調査を開始して、すぐに銀行や取引先に向かう事も十分あり得ます。
さらに、調査官は、調査先に反面調査である旨を伝える義務もなく、必要な情報だけを確認します。
このように抜き打ちで行われるため、反面調査に出来るだけ発展させない事が大切でしょう。
反面調査は拒否できるか
反面調査は通常拒否する事はできません。
「取引先に迷惑がかかるから」、「取引先の信用を失うから」などの理由のみでは、拒否をしても認められないでしょう。
なぜなら少し難しい話になりますが、
反面調査は、法人税法154条ほかの規定による質問検査権によるものです。
質問検査権とは、帳簿や書類についての確認や質問が出来る権利のことです。
質問権の目的は「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現するため」であり、適用範囲には調査対象先以外に銀行や取引先も含まれています。
また、東京高裁の判決では
「反面調査は、諸般の事情にかんがみ客観的な必要性があり、かつ社会通念上相当な限度にとどまる限り、その時期・程度については、権限ある税務職員の合理的な判断にゆだねれらる」とされ、納税者の了解を伴わない反面調査を認めています。
とはいえ、国税庁の税務運営方針には、「反面調査は客観的にみてやむを得ないと認めれる場合に限って行う」と定められています。
「客観的な必要性」があるのか、ないのか。ここがとても大事なところになります。
とても強制力がある調査ですが、どんな事が確認されるのかを調査官に聞いても問題はありません。
なお、「客観的な必要性のある」反面調査を拒否したり、口裏合わせなどの虚偽の答弁をした場合は、法人税法などの規定により、罰則があります。
罰則の内容は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
反面調査されない為の必要な対策
まとめのようになりますが、税務署が反面調査をする時は、客観的にみて必要だと判断した場合に行われます。
別の言い方をすると、必要が無ければ反面調査は出来ない。ということです。
これはとても重要な部分です。
反面調査が実施される理由はとてもシンプルなのですが、実際には税務署と対象者で見解の相違が見受けられることも事実です。
何度も記載している、「客観的な必要性」が税務署と対象者での見解の相違が生じている現状があります。
つまり、税務署は反面調査の「必要がある」と考えるが、対象者は「必要ない」と考えるようなケースです。
しかしこれは結果論でしかありません。
なぜなら、税務署の調査官が「必要がある」と考えれば反面調査を行ってしまう可能性はゼロではないからです。
反面調査が行われてしまった後で、「必要なかった!」と訴えを起こしたところで後の祭りです。すでに、取引先から持たれた疑いや失った信用を取り戻すことはとても困難だからです。
従って反面調査への対策は、あくまで「事前に対策する」です。
反面調査が行われる前に止める事が何より大切です。
普段から出来る対策としては
・帳簿を正しく記載する(正しい申告をする)
・書類の整理整頓をしておく
・帳簿や必要書類を保管しておく
など。
税務調査じに出来る対策としては
・必要書類をきちんと準備しておく
・非協力的な態度や嘘の答弁、あいまいな話をしない
・もしも、調査官より反面調査を実施しそうな言動を見受けられた場合、
調査理由(例えば不正や嘘が)が事実ではないのなら、徹底的に主張して反面調査を制止する
などです。
「絶対に」税務調査が来ない、反面調査は行われないという事はありません。
普段から万が一税務調査が来るかもしれないという事を意識し、税務処理をきちんとしておく事。税務調査中は、反面調査が必要と判断される行為や話(嘘や非協力的な態度など)をしない事。また調査官には簡単に「反面調査しよう」あるいは「反面調査してもいいだろう」とは思わせないようにする事です。
このように本調査で事が足りる事を説き、協力的な姿勢を示すことができれば、反面調査が行われる機会を減らすことができます。
最後に
税務署から連絡が来た際、まず一番に驚かれると思います。
時に、反面調査のように税務調査は、調査対象本人だけでなく、その関係者にも調査が行われることがあります。
場合によっては、申告の誤りや税金追徴よりも怖いのが反面調査です。
税務調査が行われる場合には、反面調査についても念頭に置いた税務署への対応を心がけましょう。
税務調査に入られない事が一番ですが、万が一対象となった場合に備え、正しい申告を行い、書類の不備をなくすことで、反面調査は防ぐことも出来ますので、日々の帳簿管理を徹底する事を心がけましょう。